vol.11 ●サブウェイの中で感じた白と黒
私が滞在したアパートの最寄り駅は、赤いラインで示されるABの135丁目。
ダウンタウン方向へ乗れば、そのままアポロシアターがある125丁目や42丁目のタイムズスクエアまで運んでくれるので、観光にも移動にも、とっても便利なラインである。大阪でいえば、御堂筋線といった感じの、主要ラインだ。そのラインに何度も何度も朝から深夜まで繰り返しのっていると、面白い心の変化を感じられる。
ハーレムは、黒人が多く住むエリア。
当然、アパートの階段ですれ違う人も、ストリートを歩く人も、コインランドリーのスタッフも、スーパーにくる客も店員も、基本的に肌の色が黒い。すると、常に黒い人が周りにいることに慣れてきて、それが普通の状態になってくる。
その日もいつものように135丁目からタイムズスクエアのネットカフェへ行くために地下鉄に乗り込んだ。
135丁目からの客は、ほとんどが黒人。私を含む数名のアジア人もいたが、基本的に肌の黒い人ばかりだ。ここですでに、この車両の中の黒人乗車率は90%。黒人が住むエリアから乗り込んだのだから、それは当たり前で、いつもの見慣れた光景だった。
しかし、110丁目を過ぎたあたりから、急に白人率が高くなる。
セントラルパークの一番北側にあたる110丁目は、アッパーエリアとハーレムを仕切る境目。
白と黒を仕切る場所にある駅から乗ってくる、コじゃれた服をさりげなく着込んだ白い人が、黒い世界へと突然入ってくる。ドアが開いたとたん、白い人がひとりふたりと増えてくる。小数だけどすごく目立つ。96丁目や86丁目あたりの、アッパーウエストサイドと呼ばれる金持ちセレブがハイソに、おしゃれに暮らしているエリアになると、さらに白が増えていき、中和されてくるのだけど。
私は思った。なんで白人が乗ってきたら、こんなにドキドキするのだろう。
なぜ、違和感があるのだろう。
心のどこかに注意を喚起する芽があることに正直驚いた。
大多数の黒のなかの小さな白。
それは、すごく目立つということ。
遺伝子の影響で皮膚細胞が真っ白になってしまったアルビノ種のワニは、目立つぶん外からも中からも攻撃を受けやすく、すぐに命を落としてしまうらしい。
私が感じたドキドキ感は、この車両に溢れる黒の中に、違う色、違う個性が突然入ってくるということが、周りにかなりのプレッシャーを与えているということの表れなのだろうと思った。
そしてまた、その白が気になるということは、好奇心が働いているということでもある。
興味があるけど、見た目もぜんぜん違う。
だから拒否してみたり、つついてみたり。
そして、その白と黒を置き換えてみたとき、ああ、なるほど、と思った。
こういうことが差別の種なのだろうと。
白の中に突然黒が入ってきたら、戸惑うかもしれない。
同じ色の中に、違う色が入ってくることからの、自己防衛本能。
黒人差別のすべてがそこから始まっているわけではないし、長い歴史の中で培われた悲しい積み重ねではあるが、人間の何か肌のセンサーというか、そういうちょっと違うもの、自分が許容したものの中に、新たなものが入ってきた時、その環境を容認するまでは黄色いランプが点滅する感覚。
そんなものを、地下鉄の中で感じた。
これは、視覚的な問題だけなのかもしれないけど。
でも地下鉄ってほんとに楽しい! いろんな言語が飛び交ってるし、明らかに様子がおかしいジャンキーもいるし。偽ブランド時計を入れたスーツケースを開けて、仲間同士、商品確認をしている人たちもいて、NYの人種の縮図、地球の縮図を見たような気がするのです。